評価制度を評価する

 多くの会社では、期初に目標を立てて、期末にその達成度を評価する、という仕組みが使われています。

一見すると、合理的に見えます。

でも、実際に運用される側から見ると、この仕組みには大きな矛盾があります。

目標を立てるだけで時間がかかる

まず、目標設定に時間がかかりすぎ問題。

会社の方針、部門の計画、上司の期待、他部署との関係、自分の役割、数値目標、評価基準。いろんなことを考えながら、「半年後や一年後に何を達成するのか」を言語化にしないといけません。

しかも、曖昧すぎると評価できないと言われるし、具体的にしすぎると状況が変わったときに動きづらくなります。

その結果、目標を立てるだけでかなりの時間を使う事になります。

ただ、問題はそこではありません。

そこまで時間をかけて作った計画であっても、その通りに進むことはほとんどない、ということです。

顧客の要望は変わる。経営方針も変わる。急なトラブルや割り込み業務も発生する。優先順位が入れ替わって、当初は予定していなかった仕事が急に重要になることもあります。

つまり、現場の仕事は常に変わっています。

それなのに、評価制度だけが期初の計画を前提にしています。

まず、ここに大きなズレがあります。

現場に近い評価には、まだ納得感があるが…

もちろん、目標を立てること自体が無意味だと言いたいわけではありません。

一定のレイヤーまでは、期初に立てた目標や、その後の状況変化を踏まえて、ある程度納得感のある評価がされていることも多いです。

日常的に仕事を見ている上司であれば、数字だけでは分からない事情も分かっています。

  • なぜ計画を変えたのか
  • どんな問題に対応していたのか
  • 目立たないけれど重要な仕事を誰が担っていたのか
  • チームにどんな貢献をしていたのか

現場に近い人であれば、こういう情報も含めて評価できます。

問題は、その評価が上のレイヤーに上がった時です。

上位評価がブラックボックスになる

評価が上のレイヤーに上がると、急にプロセスが見えにくくなります。

誰が、どんな情報を見て、何を基準に判断したのかが分かりません。

表向きには評価基準があります。

でも実際には、「この人をどう見ているか」「どれくらい印象に残っているか」といった、評価者の主観が強く入り込むことがあります。

しかも、上位の評価者ほど、被評価者の日常業務から離れています。

実際の仕事ぶりを知らない人が、限られた資料と短い説明だけで評価を決めます。そうなると、判断材料として強くなるのは、仕事の中身よりも、知名度や印象、説明する人のアピールのし方になりやすいです。

現場では高く評価されていた人が、上位会議で評価を下げられる。

反対に、実務上の貢献が見えにくい人でも、上位者との関係や自己アピールによって高く評価される。

こうなると、評価制度への納得感を保つのはかなり難しいです。

ブラックボックスは、組織の行動を変える

評価制度は、単に社員に点数を付ける仕組みではありません。

「どういう行動を取れば報われるのか」を、組織全体に伝える仕組みでもあります。

だから、実務上の成果よりも上位者からの印象が評価に影響するようになると、社員の行動も変わっていきます。

  • 仕事そのものより、偉い人へのアピールを優先する
  • 問題を解決するより、自分に責任が及ばないように立ち回る
  • チームの成果より、自分の評価を守ることを考える

言葉を選ばずに表現すると、いわゆる「媚びへつらう人」が出てくるのは、個人の問題ではありません。

そういう行動に合理性を与えてしまう制度にも問題があります。

さらに厄介なのは、自己保身を優先する人が、組織の計画そのものを乱すことです。

  • 失敗の責任を避けるために適切な意思決定ができない・しない
  • 自分の成果に見える仕事を優先する
  • 不都合な情報を上げない
  • 他人の仕事に介入して、成果だけを自分のものにする

ただでさえ計画通りに進みにくい仕事が、評価を意識した政治的な行動によって、さらに不安定になります。

そして期末になると、その乱れた計画を基準に評価が行われます。

ひどい悪循環です。

計画性を求めながら、計画を崩す構造

今の評価制度における大きな課題は、計画通りに進まないことが分かっているにもかかわらず、過度に計画性を求めていることだと思います。

状況が変わることを前提にせず、期初の目標を細かく作り込みます。

一方で、評価を最終的に決める人は、計画が変わった経緯や現場の事情を十分には知りません。

その結果、業務を理解していない人のさじ加減によって、納得感のない評価がされてしまう状況が生まれます。

計画を重視するなら、計画を変えた理由も同じくらい重視する必要があります。

成果を評価するなら、成果に至るまでの状況や役割もちゃんと把握する必要があります。

それができないのであれば、細かい目標設定に時間をかける意味はあまりありません。

目標はシュッと作り、評価権限は現場に近づける

改善するなら、まず目標設定をもっと軽くした方がいいと思います。

未来を正確に予測しようとするのではなく、現時点での優先事項、期待されている役割、成果の方向性を短時間で整理する。

変更が起きた場合は、期末に無理やり当初目標に結びつけるのではなく、途中で簡単に更新できるようにする。

そして、もっと重要なのは、評価の決定権を現場に近いレイヤーへ移すことだと思います。

日常的に仕事を見ていて、状況の変化や本人の貢献を理解している評価者が、最終判断に近い権限を持つ。

上位レイヤーは、個別社員の点数を細かく変えるのではなく、評価基準の整合性や明らかな偏りを確認する役割にとどめる。

現場から離れた人のさじ加減が評価に大きく影響するのであれば、少なくとも、その理由を説明できる状態にするべきです。

評価制度も、定期的に評価されるべき

評価制度は、社員を評価するための仕組みです。

でも、その制度自体がちゃんと機能しているかを評価する機会は、あまり見かけないです。

  • 目標設定にどれくらい時間がかかっているのか
  • 評価結果にどれくらい納得感があるのか
  • 現場評価と最終評価の間に、どれくらい差があるのか
  • 評価制度が、社員のどんな行動に影響しているのか

こうした点を見ずに、毎年同じ運用を繰り返していると、制度はどんどん形だけのものになってしまいます。

計画を作ることや、評価会議を開くことが目的ではありません。

社員がやるべき仕事に集中できて、その貢献がちゃんと認められることが目的のはずです。

その目的から考えると、必要なのは、精緻で複雑な制度ではないように思います。

  • 目標設定はシンプルにする
  • 状況変化は柔軟に反映する
  • 評価権限は仕事を理解している人に近づける
  • 上位判断は透明にする

社員を評価する前に、まず評価制度そのものを評価する必要があるのではないでしょうか。

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